入学式、卒業式、始業式、終業式と教師には挨拶や講話などの機会はたくさんあります。職業柄とは言え、授業とは少し違うもの。退屈の代名詞にもなっている「校長先生の言葉」。そんなレッテルを払拭するためにはやはりスピーチの研究が必要です。
マニュアルなどもありますが、やはり自分の言葉が一番「生きる」のではないでしょうか?
そこでこの記事では3学期の始業式に焦点を当てて、短いスピーチの要点と共に、挨拶例文をお送りします。
中学・高校の校長先生のみでなく、学級担任の先生にも参考していただける内容になっています。
中学生、高校生に伝えたい言葉。
始業式の挨拶、構成の考え方は?
スピーチの基本構成は?
挨拶を考えるときには、まず構成を決めますが、話を考えるときに大切とされる「起・承・転・結」の考え方は必要ありません。
もっとシンプルで良いのです。3部形式で考えます。
「イントロ」→「主題」→「結論」という考え方です。
これは日本に古来からある話芸、落語の構成の考え方と同じです。落語的に言うと「まくら」→「本題」→「オチ」となります。経営者や政治家など、人前で話す機会が多く、スピーチの上手な人には落語好きが多いとも言われます。
落語は話だけではなく、身振りや小道具なども使いますが、芸の根幹はその話、話芸です。始業式の挨拶は落語ほど長くもなく、笑わせる必要もありませんが、話で人の耳目を惹きつける落語の手法はスピーチに通ずる部分が大いにあります。
結論から組み立てる
大切なことは何を結論とするかです。
自分が一番生徒たちに伝えたいメッセージはコレですよ、という「コレ」を自分の中で明確にしておくこと。結論がしっかりとしていると必然的にそのスピーチは締まります。生徒にもなにかしら心に響くものを残せるでしょう。
あれも言いたい、これも伝えたいで、一体何が結論なのかが明確でないと結局は話全てが台無しになります。また結論=メッセージは、複数ではなくひとつにすることが大切です。
なんとなくこんな事を話そうかな?こんな話題ですすめようかな?と決まったら、そこからどのように話をつなげて、どう結論=メッセージにもっていくのか。まずは結論ありきで組み立てを考えましょう!
話を長く感じさせないコツは?
校長先生の話は世間でどう思われているのか?
ネットで「校生先生、話」と検索をしてみるとまず、お決まりのように「長い」「退屈」の文字がついて回ります。
「長い」と思う感情にはふたつあって、ひとつは物理的に長い事。もうひとつは興味が持てない話、理解しづらい話を聞いているその時間が苦痛である事。苦痛を感じる時間は誰にとっても長く感じられます。
毎回の始業式の挨拶は何分掛けていますか?原稿は何文字で作りましたか?
一般的にスピーチで適切な時間は3〜5分間であると言われます。若い生徒相手である事を考えると、3分ほどにまとめられるといいですね。
1分の話をするのに約300文字が必要と言われます。3分の話をするのには900文字です。原稿用紙で2枚半〜3枚を目安に作成します。900文字〜1200文字程度です。
スピーチ原稿で大切なことは?
スピーチを考えるのに原稿を起こすことは大切なのですが、気をつけなければいけないことがあります。それは一文の長さです。
当たり前ですが、スピーチ原稿は話すことが前提の文章です。読むための文章と違いをつける必要があります。それは、できるだけ一文の長さを短く区切ることです。具体的に書きます。
読点で無理に長くしている部分もありますが、読む場合には、さほど理解に困難はありません。ですが、音読をしてみるとわかると思いますが、このペースで話をされると聞く側は非常に疲れます。
一文の中の情報が多すぎるので頭で整理しながら聞かなければならず、理解するまでに時間がかかります。
句点を多く使用し、一文の情報はひとつです。
文末に「です」「ます」が続き、文章としては幼稚に見えますね。ですがスピーチ文としては、これでいいのです。一文一文がダイレクトに理解できるので、何の話を聞いているのか、聞く方は迷子になりません。
話をする際には抑揚の付け方や間の取り方などの工夫も必要です。その上で、このように短文を続けることによって聞き手の集中力を持続させることができます。
また初めは長めに考えて、そこから無駄な言葉や無駄な修飾を削っていくと全体がシャープに聞きやすいものになります。
盛り込みたい言葉や話題は?
3学期の始業式にはどんな言葉を盛り込むのがいいでしょうか?
学年最後の学期です。総まとめの時期として1学期2学期に出来たこと、出来なかったことを整理させて、良い締めくくりを迎えられるような行動への喚起は重要です。
クリスマス、正月と大きなイベントを過ごして迎えた新学期。少し気が緩んだ1,2年生にはあらためて意欲を起こさせる言葉を。
3年生には受験本番を迎えるにあたって、今一度気を引き締める言葉をかけると同時に、少しリラックスできる言葉を。
また、子供たちの中には、1,2学期を過ごして、学校での生活に手応えを感じていない子もいるでしょう。そのような子供たちには、今やっていることにはちゃんと意味があって、どんなことも将来につながることであり、希望を持って取り組んで欲しい、と伝える必要があります。
子供たちが夢を持てる言葉をかけたいですね。
ポイントにする話題は?
導入する話題としては
- 時事問題
- 名言・ことわざ
が双璧になるでしょうか。探しやすく、扱いやすいので迷ったらこれでしょう。
- 身近な出来事
- 前年のイベント
- 今年予定のイベント
名言やことわざは年齢にあわせた理解しやすいものを選びます。
また、どんな話をするにしても大人目線、教師目線での上からの言葉はすぐに生徒に見抜かれます。時には自らの失敗談を盛り込むことで、先生も生徒も同じ存在なのだと思わせることができます。グッと生徒との距離を近づけ、関心を得るいい方法です。
中学3学期始業式の例文
では中学3学期始業式の例文です。1280文字ですので、4分ほどになるでしょうか。
中学生にもとっつきやすいスポーツの題材、同世代の時事的話題でまとめました。
みなさんあけましておめでとうございます。
コロナ禍での2度目の年明けはどうすごしましたか?
まだ外出は控えめで、家で過ごしたひとも多かったのではないでしょうか ?
今日からは新学期、そして学年の締めの学期です。
1,2学期の総まとめをして新しい学年になる準備をしてください。
さて、コロナで大変な2年間でしたが、昨年は日本で世界的なイベントがありました。一年遅れのオリンピックですね。オリンピックは見ましたか?
どの競技が印象に残りましたか?
私が一番心に残ったのは女子のスケートボードのパークという競技で、4位だった岡本みすぐ選手です。決勝の出来事はSNSでもトレンド入りしていたらしいですから見ていなくても何があったのか知ってる方が多いのではないかな?
岡本選手は2019年の世界ランクで1位でした。でも、オリンピックが1年延期になってしまってライバル選手たちもレベルが上がり、岡本選手はオリンピック本番は最後の試技直前で暫定4位でした。逆転金メダルを狙って決まれば金メダル確実の大技にチャレンジして失敗。そのまま4位で終了しました。ところが競技終了後に各国の参加選手が岡本選手に駆け寄って、彼女を抱え上げてそのチャレンジをたたえたんですね。
長年オリンピックを見ていますがあのようなシーンは初めて見ました。みなが岡本選手の気持ちがよくわかっていたのですね。彼女たちが大切にしていることが何だかわかりますか?
それまでの練習や、努力してきた過程こそが金メダルより尊いものだとわかっているんですね。金メダルを取る、一番になることというのは一見ほかのライバル選手たちとの競争だけに見えます。
でも本質は他人との競争なのではなく、自分との競争なんです。追いついてきたライバルに勝つためには今までの自分よりもっとうまくならなければいけない。
岡本選手は一番になるための大技を新たに練習してきたけれど、残念ながら失敗して4位に終わってしまいました。その技にチャレンジしなければ3位にはなれたようです。でもチャレンジしてみせた。彼女にとってはメダルの結果よりも自分のベストを披露することを大切にしたんです。そこで披露しなければそれまでの努力がなんのためだったのかわからなくなるから。
私がみなさんに大切にして欲しいことは何かを目指すその過程が大切だという部分です。勉強でもスポーツでもいいです。あなたがいま取り組んでいることは決して誰かとの競争に勝つためではありませんし、失敗を恐れる必要もありません。
昨日の自分より、今日新しい何かができるようになること。今日の自分より明日の自分がまたあたらしい壁を乗り越える気持ちを持てること。少しずつでいいんです。英単語を1日1個ずつ覚えるなどでいいのです。
これは年齢に関係ありません。生きていく限り、少しずつでいいので前に進もうとする気持ちが大切で、それを我慢強く続けるとどこかで必ずあなたの望みが叶う日がやってきます。岡本選手もまた優勝するでしょう。
信じる気持ちをずっと持ち続けて欲しい。自分ができる範囲でいいので1日1日新しい自分になってください。その結果あなたたちが目指したところへたどり着けることをわたしは確信しています。
高校3学期始業式の例文
では高校3学期むけの例文です。1230文字です。新聞記事の「ことば」を主題にしました。
みなさん明けましておめでとうございます。
昨年に続きコロナ禍でのお正月はどうでしたか?
自分が思い描いていた高校生活を送ることが出来なかった2年間でしたね。
今年こそは貴重な高校時代を満喫できることを願っています。
1,2年生は新学年へ進むにあたり1,2学期を振り返ってやり残したこと、できなかったことを総まとめにする学期です。新年にもう一度気を引き締めましょう。
3年生はもう間もなく次のステージへ進みますね。
順調ですか?くれぐれも体調には気を配ってくださいね。
中学校を終えるときよりも高校を終えるときのほうがずっと同級生の進路は様々です。
具体的に将来の進路を絞っているひと。大変立派だと思います。
でも、自分は将来どうしようか?何も決められない、決まらない、というひとも多いのではないですか?どちらかと言えば大半がそうなのではないでしょうか?
でも、それは当たり前です。
あなたたちはまだまだ知らないことがたくさんあります。
進学したり、社会へ出た時に経験する新しい世界。
そこから新しい興味が生まれること、知らない自分に出会えることはたくさんあります。
今日新聞でとてもいい言葉を見つけました。
それは、「本気の失敗には価値がある」という言葉です。
日本に宇宙航空研究開発機構JAXAという機関がありますが、2008年に宇宙飛行士選抜試験を行いました。その試験にチャレンジした内山宗さんという方の言葉です。
最終選考まで進んだのですが残念ながら選ばれませんでした。
もともとJAXAで仕事をしていた方で飛行士にはなれなかったのですが、技術者として日本の有人宇宙開発をすすめる新たな夢を追いかけているそうです。
宇宙飛行士選抜試験はとてもハードルが高いのはよく知られていますね。それに挑んだ内山さんは試験には失敗だったけれど、そこから学んだことがとても多く、また新たな自分の目標が産まれたのだと思います。
英語の慣用句に「IT’S NOT ROCKET SCIENCE」という言葉があるそうです。
直訳すると、「それは宇宙工学ではない」ですね。
「それは難しいことじゃない」と言いたい時に使うことばだそうです。
宇宙工学を学ぶことはとても難しいことであることの裏返しですね。
私が、あなた達に宇宙飛行士を目指しましょうと言っているのではないことはわかっていただけますね。
目指して欲しいのは「本気の失敗」です。
高校の勉強は中学よりも専門的になって勉強する意味が見出せなくなることもあるかもしれません。でもそれはあなたたちが新しい世界、新しい自分に出会うためのきっかけになることなのです。ぜひあなた達の本気100%で挑んで欲しいと思っています。
いい結果になればもちろん喜ばしいことですし、たとえ失敗してもその経験は大きな価値があります。失敗を考えずにチャレンジしてください。ただし100%で。あなた達には出来ます。
今日は二つの言葉を送って終わります。
「本気の失敗には価値がある」
「IT’S NOT ROCKET SCIENCE」
参考:朝日新聞2021/11/25天声人語
まとめ
3学期始業式挨拶に焦点を当ててお送りしました。
まとめです。
- 始業式の挨拶、構成は「イントロ」→「主題」→「結論」の3部構成で
- 伝えたいメッセージ=「結論」から組み立てる
- 話を長く感じさせない長さは3分程度
- 一文の長さに気をつけて
- 新学期への引き締めの言葉と共に3年生にはリラックスする言葉も
- 時事問題、名言、ことわざは定番
- 時には自分の失敗談も生徒との距離を近づけます
- 中学3学期始業式の例文
- 高校3学期始業式の例文
新学期であり年の始まりでもある学期です。
コロナ禍の生活は中高生たちも鬱憤のたまる日々でしょう。是非夢の持てる未来を想像できる言葉をかけたいですね。
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